『闘路園(とうじえん)』──。勘の優れた方ならピンとくるかと思いますが、馴染みのない方にはさっぱりわけのわからない響きでしょう。
この言葉の大元は、岩波書店が70年の長きにわたり発行している国語辞典の大著『広辞苑(こうじえん)』なのです。
「聞いたことはあるけれど使ったことはない」という方が多いかもしれません。特に若い方々は「存在すら知らなかった」とおっしゃるかもしれません。
かくいう当方も、かつては机の脇に必ず置いていた国語辞典からすっかり遠ざかっている現状。ページを繰る作業を疎んじて、ネット検索に頼ってしまう始末です。便利な世の中になったものです。

 NHK BSで2014年から不定期ながら放送され続けている『球辞苑〜プロ野球が100倍楽しくなるキーワードたち〜』は、その名の通り野球版『広辞苑』。毎回ワンテーマを掲げ、現役選手や元選手、関係者らがそれについて深く掘り下げていく番組で、内容は実にマニアック。熱狂的なプロ野球ファンでもある当方は、毎度腕組みをして唸らされてきましたが、プロ野球に全く興味のない人たちからも「観てみたら惹きつけられた」という感想をあちらこちらから聞きました。「一見しただけではわかりづらい、隠れた野球のおもしろさを伝えたい」というスタッフの情熱と丁寧な作りが実を結んでいるということに違いありません。

「強い」「弱い」、「勝者」「敗者」。ボクシングは白黒が最もはっきりつく競技と言われています。「スピードが速い」「パンチ力が強い」といったハイ・パフォーマンスは、誰が見てもわかるものかもしれません。けれども実際は、目に見えるものだけで勝負は決まりません。まさに一瞬で決してしまうものではありますが、そこに至る過程──0コンマ数秒の集積──がどの試合にも必ずあるのです。

 物心つく前、父親のヒザの上に乗せられてボクシングを見始めて以来、半世紀。念願叶い、ボクシング記者となって25年。気がつけば、「0コンマ数秒の集積を読み解きたい」という想いに憑りつかれていました。同時に「ボクシングは見れば見るほどわからなくなる」というジレンマに陥ったところで出会った『球辞苑』──。「このボクシング版をやりたい」という想いが芽生え、時が経つ毎にどんどんと膨らんでいき、とうとうこの『闘路園』に辿り着いたという次第です。

『広辞苑』や『球辞苑』のような辞典的作りには到底及びません。双方を敬う気持ちをこめて音のみを拝借し、文字を変えさせていただきました。「闘=ボクシング」「路=道、過程」は何となくおわかりいただけるかと思いますが、問題は「園」です。これは、「公園」「動物園」など、「園」の付くものを連想していただければ。大真面目に“遊び”要素にも取り組みたいという意志表示です。

 サイト名は『闘路園』ですが、「攻路園」と「防路園」というカテゴリーに分かれています。前者は試合やボクサーのパフォーマンスに焦点を当てるテーマを、後者はボクサー自身や周辺状況、支える人々やボクシング界を彩ってきた方々にスポットを当てるテーマを掲げています。

 辞典には至らないかもしれません。けれども歳月を重ね、各記事を積み上げていけば、これまでにない新たな「拳闘辞典」ができるかもしれません。カウントダウンが始まった人生に反し、気が遠くなるような作業ですが、ボクサーたちの日々の積み重ね、試合での“集積”のように地道に続けていければ、と練習生のような初心を抱いております。

 選手、関係者のみなさんはもとより、マニア・初心者問わずボクシングファンのみなさんとともに、この『闘路園』を構成していきたい。そして折々にこの『闘路園』をめくるのを、何よりも私自身が楽しみにしています。『闘路園』編纂へのご協力をどうぞよろしくお願いいたします。